共産党と拉致事件について


僕は最初日本共産党大嫌いだったんだよな。
2002年当時は、「拉致支援政党を支持するとは何事!」という立場だった。
社民党共産党は永遠にこの世から消えてなくなれ!」と思っていた。
それが変わったきっかけとなる本が、上の「北朝鮮問題と日本共産党の罪」なんだけど、この本を紹介したい。
(題名見れば分かるけど、徹底的に共産党を批判した本です)


このことを考える際兵本達吉という人物に触れないわけにはいかない。
この人物、共産党参議院議員の秘書として長年拉致事件の調査をして、1998年に60歳で共産党を除名されている。
それ以来ずっと「共産党は存在自体悪であり評価するところは何一つ無い」
日本共産党こそ、拉致事件解決の最大の妨害者」と、熱心に反共活動をしている。
振り返ってみれば、「共産党は拉致解決を妨害してきた」という言説は、すべてこの人から発信されてるんだよな。
色んなところから「共産党は拉致支援政党」と言われているが、突き進めていけばそういう論説はすべてこの人に行き着く。


この人をgoogleで検索すると、検索第1位ページがこんなページである。
兵本氏が書いた「日本共産党の戦後秘史」の感想文と言う形をとっているが、その本を読まなくても十分に面白いという稀有な文章である。
真ん中へんの>最後に、決定的な疑問を提起させていただきますくらいまではとても面白いので、「日本共産党の戦後秘史」を読んだ人も読んでない人もぜひ読んで欲しい。


さて、で、この「北朝鮮問題と日本共産党の罪」(amazonで星5つ)なんだが、どうやら公明党による謀略本らしい。
と言っても、今までの僕の文章を読んだ人は分かると思うけど、僕は「この本は創価学会が書いたものだから間違っている」とか、「この本は反共産党的だから間違っている」とかそういう考え方はしない。
あくまで、書いてあることをじっくり読んで、真実かどうか吟味した上で評価する。
てゆうかこの本を読むまでは僕は共産党大嫌いだったから当たり前なんだけど。
で、この本もやっぱり兵本達吉氏が出てきて、共産党を徹頭徹尾クソミソにけなしている。


で、どう共産党が拉致調査を妨害しているかという記述が、


「私が拉致問題に深く関わるようになるほど、日本共産党は、目に見えて冷淡な態度をとるようになった。まず被害者の家族に会うための旅費を出張費として決済してくれない。半分くらいのケースでは、仕方なく自腹を切って調査を続けた。さらに何度も何度も報告書をださせたり、頻繁に報告を求めるようになった。」
(本本共産党の罪21ページ)


なのだが、これを読んで、たいていの人は「ああ、やっぱり共産党は拉致調査を妨害してたんだ」と思うのかもしれないけど、僕は生憎ひねくれているので、うのみにはしない。
3通りの可能性が考えられる。


1.兵本氏の言うとおり、共産党は拉致調査を妨害する気で上記のようなことをした
2.共産党は拉致調査を妨害する気は無かったが兵本氏は「妨害されている」ととった
3.兵本氏が嘘をついている


どれかが真実かを今から検討する。
で、旅費を出張費として決済してくれない。半分くらいのケースでは、仕方なく自腹を切って調査を続けた。
の部分だが、この文章、裏を返せば、共産党は半分くらいは出張費としてお金を出してくれたことになる。しかも、「出張」というのは、「普段やっている仕事の代わりに仕事として認められる旅」のことをいうのだから、
共産党は拉致調査を「共産党の仕事」として認定していることになる。
これって拉致調査を妨害する団体の立場か?
妨害っていうのは、「自分の興味のみに基づいて行われる、休暇をぬってすべて自腹で行う調査まで仕事上の権力で強引にやめさせる」事を妨害って言うんだろ?
しかも、金を出すにしろ出さないにしろ、兵本さんはその出張中他の仕事を休んでいるわけだから、報告を求めるのは当たり前だと思うが。
共産党ってところは出張しまーすと言ってどっか出かければ全く報告しなくても出張と認めて金を出してくれるようなとこなのか?
というわけで、1は無い。2も多分無いだろうな。40年も社会人やってる人間がそんなこと分かんないなんて考えられないよ。
というわけで、残ったのは3である。兵本氏はどういう理由かは分からないが、嘘をついている。共産党は半分旅費を出してくれなかったというのは本当なのかそれともそれも嘘で本当は全額出してくれていたのかは分からないが、とにかく兵本氏は共産党をおとしめるために「共産党は拉致調査を妨害した」と言っているのは間違いないと思う。


で、結局、兵本さんは共産党を除名させられるわけだが、その除名のときの描写がこうなっている。


日本共産党の非民主的体質は、戦前からつづく「査問」という恐怖の制度にも象徴される。用件も知らせず突然、党本部に呼び出し、何時間も缶詰めにして、同じことを繰り返し聞く。警察の取調べとほとんど変わるところはない。それを公権力ではなしに、ふつうの民間機関が行っているところがこの制度の特徴である。(中略)
その場面を、兵本氏が書いたものから再現してみよう。
 「6月3日の朝、参議院で、日本共産党参議院の事務局長を通じて、代々木にある党本部に出頭してほしいとの連絡があった。事務局長に聞いても、呼び出しの理由ははっきりしなかった。‥‥私の場合、北朝鮮によるによる日本人拉致問題を長く追及しており、党の指導部から『ちょっと事情を聞かせてください』と呼ばれることは少なくなかったので、それほど気にもかけていなかった。しかし、党本部の玄関に入って、受付で待っている間に、ちょっと様子がおかしいことに気が付いた。何となく構えるような緊張した雰囲気が漂っているのだ。
 ともあれ受付に到着を告げると、受付が統制委員会に電話をかけた。統制委員会といえば、党内の規律を取り締まる委員会だ。私は首をかしげた。統制委員会からお叱りを受けるようないわれはないはずだ。
 ややたって二階の会議室に向かうように言われた。会議室では5人の男が並んで座り、私を待ち受けていた。私はたったひとりで、彼らと向かい合う席に座らされた。そのうちの4人はいずれもよく見知った人物だった。まず、統制委員会の責任者である小林栄三。共産党の法規対策部の部長を長く務め、宮本顕治秘書の経験もある。我々の間で、冗談交じりに『代々木べリア』と呼んでいた人物だ。スターリンの片腕として粛清を担当したベリアある」
 兵本氏への「査問」という名の“暗黒裁判”は98年、こうして始まった。ここで兵本氏はいきなり「君は警察のスパイだ」と宣告されることになる。兵本氏は最初は冗談だろうと思って笑っていたが、彼らは本気だった。兵本氏は、「日本共産党において、『スパイ』のレッテルをはられたら、それは死刑を宣告されたに等しい」とも書いている。
 兵本氏への査問は次のような言葉から始まった。


 「君の党員権を三カ月停止する」
 私が座るなり、小林が切り出した。依然として事態が把握できず、
 「どうしてですか」
 「まあ、君自身が分かっていることだろう」
 と小林に言われても、私には「分かりませんが」と答えるほかない。すると小林は断定するように言った。
 「分からないはずがない。君は警察のスパイだ」
 あまりにも突拍子もない話に、私は思わず笑い出してしまった。共産党においては、「スパイ」という概念は、融通無碍といおうか、いくらでも拡大解釈が可能である。


 このとき、訊問の8割は、“代々木ベリア”小林栄三氏が行ったという。兵本氏が「私がスパイだという証拠があるのか」と問うと、「我々がどうして証拠を集められるんだ。証拠なんかあるわけがないじゃないか」と言い返してきたという。要するに、中世の時代の“魔女狩り”や“暗黒裁判”となんら変わることがないのである。
 この調子で5日間にわたって計20時間、「査問」は続けられた。
 査問する側は「もう正直に本当のことを言ったらどうだ」と同じことばを何時間も繰り返して、ねちねちと迫ってくる。不毛な繰り返しが延々とつづいた。
 (北朝鮮問題と日本共産党の罪104-107ページ)


ちょっと待て。あんたが除名された理由って、「拉致事件を解明しようとしたから」じゃなかったのか?
この本の32ページでも 「私の除名理由は、警察官とあったことではありません。だって、20時間に及ぶ査問では拉致調査のことばかりを繰り返し聞かれているわけですから」
と書かれている。


どういうことだ?


二つの可能性が挙げられる。


1.「君は警察のスパイだ。否定しても得にならない。さあ、いい加減正直に本当のことを話せ」とねちねちとくり返すことは、拉致調査のことばかり繰り返し聞くことである。
2.兵本氏は嘘をついている。


1.の可能性として、一つだけ考えられるのは、「拉致事件を調査することは警察のスパイ活動をしているということ」と共産党が考えているということなんだが、ちょっと考えにくいし、それだったら、もう少しその辺が分かるように書くだろう。
というわけで、2の可能性が強いと思う。本当に「査問」なるものが行われて、拉致調査のことばっかり聞かれたのか、「君は警察のスパイだ」と何度も押し問答したのか、それとも全く関係ない話題だったのか、
または「査問」というものが行われているらしいということを兵本氏が聞きつけてそれっぽく話を作っただけで本当は「査問」なんて行われなかったのかはわからない。
でも、兵本氏が何らかの嘘をついていることは間違いないと思う。


兵本氏は「査問」をしたと言われる小林氏についてこう語っている。


「査問の責任者である小林が『党員の中には、年を取ったり、病気になったりして、活動もできない、かえってみんなに迷惑をかけるだけだから、党を辞めさせてもらいたい、という同志もいる。それでも最後のところで思い止まって頑張っているんだ』と言ったかと思うと、急に声を挙げて泣き始めたのである」 (引用者注:これは文藝春秋に書かれた物らしい)
 大のおとなが査問の最中に泣き出したというのだ。しかも、「査問」を行う側がである。
 以下は兵本氏の回想だ。
 「小林栄三という人は、病気で精神状態もちょっとおかしかったんじゃないかと思いますね。泣いただけじゃないんですよ。『文藝春秋』では書かなかったけど、私がすごい剣幕でどなり上げたときですが、小林氏がはいていた白いズボンに、下に向かってミミズのような一本の線が走ったんですね。あれっと思ってみていたら、小便をちびっているんです。だいたい査問受けて、査問委員を怒鳴ったのは、日本共産党の歴史始まって以来、私が最初らしいです」
日本共産党の罪108ページ)


これ読んだとき、僕はさすがにヒイたんだが、皆さんはどう思うんだろう。これ読んで、「ああ、やっぱり共産党は異常なんだなあ、いきなり泣き出した上に小便ちびるのかよ」って思う人間は創価学会の信者くらいじゃないか?
僕はこれ読んで「いくらその人が憎いからって、奴はいきなり泣き出したとか小便ちびったとか言う方が人格疑われるよ?」と思うんだが。



「人を呪わば穴二つ」という言葉がある。人を悪くいう人間は、同時に自分の評判を下げてしまうと言うことだ。
兵本氏が共産党を悪く見せたいがために言ったことは、兵本氏自身に対する信用をなくしてしまった。
おかげで僕は兵本氏の言うことは一切信用できなくなり、
兵本氏と対立している共産党の「我が党は拉致解決に対して絶え間ない努力をしてきた。兵本氏を除名したのは拉致事件を解明しようとしたからではなく彼が警察のスパイだから」という言い分を信じるようになった。
同時に、この言葉は僕自身に対して鋭く突き刺さっている。
今までは自分で思っているだけだったからよかったが、既にこの瞬間自分より40年以上年上の大人に向かって「嘘つき野郎」呼ばわりしたわけだ。
「ごめん、勘違いでした」ではすまない。
もしこれが勘違いで兵本氏が正しかったら、僕自身の責任は重大で、信用を激しく損なうだろうし、
同時に僕が何度か持ち上げた共産党も損なうだろう。
だが、僕は逃げも隠れもしない。(たぶん。)もし、それおかしいよ、ってところがあれば、遠慮なくコメント欄に書くかトラックバックを送って欲しい。


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